【クラウド入門 第7回】ネットワーキング 後編 ― Route 53 ResolverとVPCエンドポイント、ピアリングとTransit Gateway、サイト間VPNとDirect Connect、Route 53、CloudFront、Flow Logs、Azureとの対応

クラウド
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「EC2 から、オンプレの社内ドメイン(corp.example.jp)の名前が引けません。VPC の DNS サーバーを社内の DNS に向ければ解決しますか」
「プライベートサブネットのサーバーから S3 へ毎晩バックアップを送っていたら、NAT ゲートウェイの料金が S3 の保存料より高くなっていました」

第6回では、VPC の中の設計を見ました。オンプレでは DNS サーバー・専用線・VPN 装置・CDN 事業者がしていたことを、AWS ではサービスの組み合わせで作ります。

第7回では、VPC 内の DNS、VPC エンドポイント、VPC 間とオンプレとの接続、Route 53、CloudFront、Flow Logs を扱い、3 層 Web システムの演習、よくあるつまずき、Azure との対応表で締めくくります。料金・上限は2026年9月時点の値で、料金は東京リージョンの例です。


VPC 内の DNS:Route 53 Resolver

VPC 内のインスタンスは、DHCP(次の節の DHCP オプションセット)で配られる VPC の CIDR+2 のアドレス(10.0.0.0/16 なら 10.0.0.2。169.254.169.253 でも可)を DNS サーバーとして使います。これが Route 53 Resolver(DHCP オプションセットでの名前は AmazonProvidedDNS。2025年に Route 53 VPC Resolver と改称)で、フルサービスリゾルバーの役割を AWS が提供しています(フルサービスリゾルバーは連載「DNS入門」第3回の「再帰問い合わせと反復問い合わせ」、VPC の DNS は第10回の「VPCのDNS(Route 53 VPC Resolver)」で詳しく扱っています)。

インターネットの名前解決に加え、ip-10-0-1-23.ap-northeast-1.compute.internal のような AWS 内部名や、VPC エンドポイントのプライベート名を解決します。VPC の属性 enableDnsSupport と enableDnsHostnames の両方を有効にしておく必要があり、これを切ると内部名や RDS のエンドポイント解決が壊れます。

プライベートホストゾーンは VPC に関連付ける内部専用のゾーンで、db.corp.internal のような社内名を VPC 内だけで解決させます。オンプレの DNS と相互に名前解決するには Resolver エンドポイントを使い、インバウンド(オンプレ → VPC の名前を引く)とアウトバウンド(VPC → オンプレの corp.example.jp を転送ルールで引く)を VPN/Direct Connect 越しに構成します。これはオンプレの DNS の「条件付きフォワーダー」そのものです(連載「DNS入門」第3回の「条件付きフォワーディング」、第10回の「Resolverエンドポイントと転送ルール」)。

紫の枠「VPC 10.0.0.0/16(enableDnsSupport/enableDnsHostnames 有効)」の中で、「EC2」から「名前解決(DHCP で配布)」の矢印が「Route 53 Resolver 10.0.0.2(CIDR+2)」へ伸び、Resolver から「db.corp.internal」の矢印で「プライベートホストゾーン」へ、「外部名」の矢印で「インターネット」へ、もう1本の矢印で灰色の箱「AWS 内部名 ip-10-0-1-23.ap-northeast-1.compute.internal RDS/VPC エンドポイント名」へつながる。下の灰色の枠「オンプレとの相互解決:Resolver エンドポイント」では「アウトバウンドエンドポイント」から「転送ルール:corp.example.jp → DC」の矢印が「オンプレ DNS(AD の DC 等)」へ、オンプレ DNS から「オンプレから VPC の名前を引く」の矢印が「インバウンドエンドポイント」へ向かい、「= DNS の条件付きフォワーダー(連載「DNS入門」)」と書かれた、VPC の DNS とオンプレとの相互解決を示す図
  • VPC 内 DNS=Route 53 Resolver(CIDR+2)。enableDnsSupport/enableDnsHostnames を有効にする
  • 社内名はプライベートホストゾーン
  • オンプレとの相互解決は Resolver エンドポイント+転送ルール(条件付きフォワーダー)

DHCP オプションセットと VPC エンドポイント

  • DHCP オプションセット:VPC 内のインスタンスに配る domain-name(検索ドメイン)、domain-name-servers(既定 AmazonProvidedDNS)、ntp-servers、netbios-name-servers を定義する。VPC に 1 つ関連付ける。IP アドレスそのものは ENI に紐づき固定で、DHCP は「その IP を通知する」役。AD 環境で DNS を AD の DC に向けたいときにこれを差し替えるが、AWS 内部名の解決が壊れるので、DC 側で Resolver へ条件付き転送する構成が一般的
  • NTP:Amazon Time Sync Service が 169.254.169.123(IPv6 は fd00:ec2::123)で提供され、AL2023 は既定でこれを使う(連載「NTP入門」第7回の「クラウドの時刻」)。外部 NTP に出す必要はない
  • VPC エンドポイント:VPC からインターネットを経由せずに AWS サービスへ到達できる
    • ゲートウェイ型(S3、DynamoDB のみ):ルートテーブルにプレフィックスリスト宛のルートを追加する。無料
    • インターフェイス型(PrivateLink):サブネットに ENI(プライベート IP)を作り、サービスの名前解決がその IP に向く(プライベート DNS)。時間+処理量の課金。SSM、CloudWatch Logs、ECR、KMS など
  • プライベートサブネットで「NAT なしで Session Manager と S3 だけ使いたい」なら、S3 ゲートウェイ+SSM 系インターフェイスエンドポイント 3 つ(ssm、ssmmessages、ec2messages)で足りる

冒頭の1つ目の相談がこれです。DNS を社内の DNS サーバーに向けると、AWS 内部名や RDS の名前が引けなくなります。VPC の DNS は Resolver のままにして、アウトバウンドエンドポイントに corp.example.jp の転送ルールを付けるのが基本です。

冒頭の2つ目の相談もここです。NAT ゲートウェイは処理量に 0.062 USD/GB(第6回)がかかりますが、S3 のゲートウェイ型エンドポイントは無料です。

紫の枠「VPC」の中の青の枠「プライベートサブネット(NAT なし)」で、「EC2」から「ルートテーブルにプレフィックスリスト」の矢印が「ゲートウェイ型エンドポイント(無料)」へ、その下の「S3/DynamoDB」へつながり、EC2 から上を回る「プライベート DNS で ENI の IP に解決」の矢印が「インターフェイス型 PrivateLink(ENI・有料)」へ、その下の「SSM・Logs・ECR・KMS…」へつながる。サブネットの下に「NAT なしで Session Manager と S3 だけ使う → S3 ゲートウェイ+ssm/ssmmessages/ec2messages の 3 つ」とあり、下の枠「DHCP オプションセット」に「domain-name/domain-name-servers(既定 AmazonProvidedDNS)/ntp-servers。IP は ENI に固定で DHCP は「通知役」。DNS を AD の DC に向けると AWS 内部名が壊れる → DC から Resolver へ条件付き転送」、枠「NTP(→ 連載「NTP入門」)」に「Amazon Time Sync Service 169.254.169.123(IPv6 fd00:ec2::123)。AL2023 は既定で利用。外部 NTP へ出す必要なし」とある、VPC エンドポイントの2つの型と DHCP オプションセット・NTP を示す図

VPC 間の接続:ピアリングと Transit Gateway

  • VPC ピアリング:2 つの VPC を 1:1 で接続する。別リージョン・別アカウントも可能。CIDR が重複していると不可。推移的ルーティングはできない(A–B、B–C を結んでも A–C は通らない)。両側のルートテーブルに相手 CIDR → pcx を追加する。転送料は、同じ AZ の中なら無料、AZ をまたぐと AZ 間と同じ(送信・受信それぞれ 0.01 USD/GB)、リージョンをまたぐとリージョン間の料金
  • VPC が増えるとフルメッシュが必要になる(N 個で N(N−1)/2 本。10 VPC で 45 本)
  • Transit Gateway(TGW):リージョン単位のハブ。VPC・VPN・Direct Connect・他リージョンの TGW を「アタッチメント」として接続し、TGW 側のルートテーブルで経路を集中管理する。推移的ルーティングも可能で、数千 VPC まで拡張できる
  • TGW の料金:アタッチメントあたり時間課金(約 0.07 USD/h)+処理量(0.02 USD/GB)(2026年9月時点)。少数 VPC ならピアリングの方が安くなる
  • TGW ルートテーブルで分離:本番用と検証用のアタッチメントを別のルートテーブルに置けば、同じ TGW でも相互に通信させない設計ができる(オンプレのルーターの VRF に相当する)
  • VPC Lattice(2023):サービス単位(HTTP)で VPC 越しに接続する新しい選択肢。ネットワーク層でなくアプリ層でつなぐ
上段に「VPC A 10.0.0.0/16」「VPC B 10.1.0.0/16」「VPC C 10.2.0.0/16」の3つの枠が並び、A–B と B–C がピアリングの印で結ばれ、A と C を結ぶ赤い点線に「× 通らない」と書かれ、下に「ピアリング(1:1・非推移):A–B、B–C を結んでも A–C は通らない。CIDR 重複は不可。N 個で N(N−1)/2 本」とある。下段の点線の枠「Transit Gateway(リージョン単位のハブ)」の中央に「TGW ルートテーブルで経路を集中管理」、四隅の「VPC 本番」「VPC 共通基盤」「VPC 検証」「オンプレ(VPN/DX)」と両向きの矢印でつながり、「推移的ルーティング可。TGW ルートテーブルを分ければ本番/検証を分離(VRF 相当)」の注記と、枠の下に「料金:アタッチメント 約 0.07 USD/h + 0.02 USD/GB。少数 VPC ならピアリングの方が安い」「VPC Lattice(2023):ネットワーク層でなく HTTP サービス単位で繋ぐ新しい選択肢」とある、ピアリングと Transit Gateway を比べる図

オンプレとの接続①:サイト間 VPN

サイト間 VPN は、オンプレのルーター/ファイアウォール(カスタマーゲートウェイ)と AWS 側の仮想プライベートゲートウェイ(VGW)または Transit Gateway の間に、インターネット経由の IPsec トンネルを 2 本張ります。2 本は AWS 側の別 AZ の終端に落ちており、片方が保守で落ちても継続するので、両方を有効にして BGP で経路交換するのが正しい使い方です(静的ルートも可能です)。

トンネル 1 本あたりの帯域は標準で約 1.25 Gbps(Transit Gateway か Cloud WAN に接続する場合は、2025年11月に加わった大容量トンネルで最大 5 Gbps)、IKEv1/v2、AES-256、SHA-2 に対応しています。構築は数時間で、費用は接続あたり約 0.048 USD/h(東京、月 35 USD 程度。大容量トンネルは 0.60 USD/h。2026年9月時点)+転送料と安いですが、インターネット経由のため遅延と帯域は保証されません。Accelerated VPN は Global Accelerator のエッジで受けて AWS バックボーンに乗せることで品質を改善します。

オンプレ側の機器設定は、コンソールから機種別(Cisco、Fortinet、YAMAHA 等)の設定サンプルをダウンロードできます。Direct Connect(次の節)のバックアップ回線として VPN を併用する構成が、コストと可用性のバランスから最も一般的です。

左の灰色の枠「オンプレミス拠点」に「カスタマーゲートウェイ(FW/ルーター)」、右の点線の枠「AWS リージョン」に「仮想プライベートゲートウェイ/TGW」があり、間の「インターネット」の雲の上下を「トンネル 1(IPsec)」と「トンネル 2(別 AZ 終端)」の2本の矢印が通る。下に「2 本のトンネルを両方有効にし BGP で経路交換(片方の保守時も継続)。1 本 約 1.25 Gbps(TGW 接続なら大容量トンネルで 5 Gbps)、IKEv2/AES-256/SHA-2」とあり、下の枠「位置づけ」の表で、サイト間 VPN は「構築:数時間」「月 35 USD 程度+転送料」「帯域・遅延は非保証(インターネット)」、Direct Connect は「構築:数週間〜数か月」「ポート課金+回線費+転送料」「専用線で安定・低遅延」と比べ、「→ DX を主回線、VPN をバックアップにする構成が最も一般的。Accelerated VPN はエッジ経由で品質改善」と結んだ、サイト間 VPN の構成と Direct Connect との比較を示す図
  • IPsec トンネル 2 本、BGP で経路交換。1 本 1.25 Gbps(大容量トンネルは 5 Gbps)
  • 数時間で構築、月 35 USD 程度+転送料。帯域・遅延は非保証
  • Direct Connect のバックアップとして併用するのが定番

オンプレとの接続②:Direct Connect

  • AWS のネットワークとオンプレを専用線で直結する。インターネットを経由しないため、帯域・遅延が安定し、転送料もインターネット向けより安くなる
  • 専有型(Dedicated):1/10/100/400 Gbps(400 Gbps は一部のロケーションのみ)のポートを AWS から直接。ホスト型(Hosted):APN パートナー(通信事業者)経由で 50 Mbps〜25 Gbps。国内の多くはホスト型
  • 接続先は「Direct Connect ロケーション」(東京・大阪のデータセンター)。自社拠点からロケーションまでの回線は別途契約が必要
  • VIF(仮想インターフェイス):1 本の物理接続を VLAN(802.1Q)で分割する。プライベート VIF(VPC へ)、トランジット VIF(Transit Gateway へ)、パブリック VIF(S3 等のパブリックエンドポイントへ)。経路交換は BGP 必須
  • Direct Connect Gateway:1 本の DX から複数リージョン・複数アカウントの VPC へ到達できる
  • リードタイムは数週間〜数か月、費用はポート時間課金+転送料(+パートナー回線)。単一障害点にしないため 2 本(別ロケーション)か VPN バックアップが必須(AWS の SLA も冗長構成が条件)
  • MACsec による物理層暗号化を、10/100/400 Gbps の専有型(一部のロケーション)で選択できる。VPN over DX で IPsec を重ねる構成もある
上段は、左の灰色の枠「オンプレ拠点」の「ルーター(BGP)」から「回線事業者」の矢印が点線の枠「DX ロケーション(東京・大阪の DC)」(「ロケーションまでの回線は別契約」)へ入り、そこから「専有 1〜400 G ホスト型 50 M〜25 G」の矢印で点線の枠「AWS」の「DX Gateway」へつながる。中段の枠「VIF(802.1Q VLAN で分割・BGP 必須)」に「プライベート VIF → VPC(VGW)」「トランジット VIF → Transit Gateway」「パブリック VIF → S3 等のパブリック EP」の3つ、下段の赤の枠「冗長化(SLA の条件)」に「DX ①」「DX ②(別ロケーション)」「or」「VPN バックアップ」と「リードタイム数週間〜数か月。MACsec で物理層暗号化(10/100 G 専有型)、VPN over DX で IPsec を重ねる構成も」とある、Direct Connect の構成と冗長化を示す図

Route 53

Route 53 は AWS のマネージド DNS で、権威 DNS サーバー(ホストゾーン)、ドメイン登録(レジストラ)、そして VPC 内のリゾルバー(この回の「VPC 内の DNS:Route 53 Resolver」の節)の 3 つの機能を持ちます。名前は DNS のポート 53 に由来します(権威 DNS は連載「DNS入門」第1回の「DNSの3つの登場人物」、レジストラは第2回の「レジストリ・レジストラ・Whois/RDAP」)。

パブリックホストゾーンを作ると 4 つのネームサーバー(異なる TLD の awsdns-xx.com/.net/.org/.co.uk)が割り当てられ、SLA は 100% を謳っています。レコードは A/AAAA/CNAME/MX/TXT/SRV/NS/CAA など標準のものに加え、AWS 独自のエイリアスレコードがあり、ELB・CloudFront・S3・API Gateway・別のレコードを、CNAME では禁止されているゾーン頂点(example.jp そのもの)でも指せます。エイリアスは A レコードとして応答し、クエリ課金もかかりません。

ヘルスチェック(HTTP/TCP の監視、CloudWatch アラーム連動)と組み合わせると、異常なエンドポイントを応答から外す DNS レベルのフェイルオーバーができます。DNSSEC の署名にも対応しており、KMS の鍵で KSK を管理します(DNSSEC と KSK は連載「DNS入門」第9回の「DNSSECの仕組み」「アルゴリズムと鍵の運用」)。ゾーン転送(AXFR)はサポートしないので、オンプレの BIND からの移行はゾーンファイルのインポート機能か API で行います(AXFR は第7回の「ゾーン転送:AXFR・IXFR・NOTIFY」)。

上段で「利用者」から「www.example.jp?」の矢印が「フルサービスリゾルバー」へ、そこから「反復問合せ」の矢印が「Route 53 権威 DNS(NS 4 台、SLA 100%)」へ向かい、中段の枠「パブリックホストゾーン example.jp」に「www A(エイリアス) → ALB dualstack.xxx.ap-northeast-1.elb.amazonaws.com」「example.jp A(エイリアス) → CloudFront(ゾーン頂点でも OK。CNAME は不可)」「mail MX 10 … _dmarc TXT … CAA … DNSSEC 署名対応」の3行があり、そこから「ELB」「CloudFront」「S3」の箱へ矢印が伸び、太字で「エイリアスレコード:AWS リソースを A として応答し IP の変化に追従、クエリ課金なし」、下の枠「ヘルスチェック連動フェイルオーバー」に「プライマリ(東京 ELB)の HTTP 監視が失敗 → セカンダリ(大阪)の IP を応答。TTL を短く設計する。AXFR(ゾーン転送)は非対応、BIND からの移行はインポート機能で」とある、Route 53 の権威 DNS とエイリアスレコードを示す図
  • 権威 DNS+レジストラ+リゾルバー。SLA 100%
  • エイリアスレコード:ゾーン頂点でも AWS リソースを指せる(A として応答)
  • ヘルスチェック連動のフェイルオーバー、DNSSEC 対応。AXFR は非対応

Route 53 のルーティングポリシー

ポリシー動作用途
シンプル固定の応答(複数値なら順不同で全部返す)通常のレコード
加重(Weighted)重み(0〜255)に応じた割合で振り分けカナリアリリース、段階移行
レイテンシー問い合わせ元に対して最も遅延の小さいリージョンを返すマルチリージョンの Web
フェイルオーバープライマリのヘルスチェック失敗時にセカンダリを返すアクティブ/スタンバイの DR
地理的位置(Geolocation)問い合わせ元の国・大陸で応答を変える国別コンテンツ、規制対応
地理的近接性(Geoproximity)リソースの位置とバイアス値で振り分けトラフィックフローで可視化しながら調整
複数値回答(Multivalue)最大 8 件をヘルスチェック済みで返す簡易な負荷分散
IP ベース問い合わせ元の CIDR で応答を変える特定 ISP・拠点向け

応答を決めているのは問い合わせてきたリゾルバーの IPです(EDNS Client Subnet 対応リゾルバーならクライアントのサブネット)。社内のフォワーダー経由で引くと「社内 DNS の場所」で判定される点は、EDNS の話と直結します(連載「DNS入門」第4回の「EDNS(0)とOPT疑似レコード」、第10回の「エイリアス・ルーティングポリシー・ヘルスチェック」)。TTL の設計(フェイルオーバーで短く、静的で長く)も同様です(第7回の「TTLの設計」)。


CloudFront(CDN)

  • 世界数百のエッジロケーションにコンテンツをキャッシュし、利用者に近い場所から配信する CDN。HTTP のキャッシュ制御(Cache-Control、ETag)がそのまま効く(連載「HTTP入門」第5回の「Cache-Controlの主なディレクティブ」「CDNの仕組み」)
  • オリジン:S3(OAC で S3 を非公開にしたまま CloudFront だけに読ませる)、ALB、EC2、任意の HTTP サーバー、MediaPackage(ライブ配信。以前のオリジン MediaStore は2025年11月13日に提供を終えた)
  • ディストリビューションに、キャッシュ動作(パスパターンごとの TTL・転送するヘッダー/Cookie/クエリ)、証明書(ACM の us-east-1 で発行したものが必要。ACM は第9回と連載「証明書入門」第9回の「ACM(AWS Certificate Manager)」)、WAF、地理制限を設定する
  • エッジでの処理:CloudFront Functions(軽量 JS、ヘッダー書き換え・リダイレクト)、Lambda@Edge(本格的な処理)を使える
  • 効果:遅延の削減、オリジンの負荷軽減、AWS Shield Standard による DDoS 緩和が無料で付くこと、転送料がリージョンから直接出すより安いこと(CloudFront → インターネットは月 1 TB まで無料。2026年9月時点)など
  • 動的コンテンツ(API)でも、TLS 終端をエッジで行い AWS バックボーンでオリジンまで運ぶことで体感速度が改善する
  • キャッシュの無効化(Invalidation)はパス単位。バージョン付きファイル名(app.3f2a.js)で運用する方が確実(連載「HTTP入門」第5回の「キャッシュバスティングと設定の型」)
左の「利用者(東京)」と「利用者(欧州)」から、それぞれ「近くから配信」の矢印で「エッジ(東京)」「エッジ(フランクフルト)」へつながり、2つのエッジから「キャッシュミス時」の矢印が「リージョナルエッジキャッシュ」へ、そこから「取得」の矢印で下の枠「オリジン」(「S3(OAC で非公開)」「ALB/EC2」「任意の HTTP」)へ向かう。下の枠「機能」に「キャッシュ動作:パス別 TTL、転送するヘッダー/Cookie/クエリ」「証明書は ACM の us-east-1 で発行」「WAF・地理制限・Shield Standard(無料の DDoS 緩和)」「CloudFront Functions/Lambda@Edge でエッジ処理」「無効化はパス単位 → バージョン付きファイル名で運用」の5行がある、CloudFront の配信の流れと機能を示す図

VPC Flow Logs とネットワークの可観測性

  • VPC Flow Logs:ENI・サブネット・VPC 単位で、通過した(または拒否された)フローの 5 タプル・バイト数・ACCEPT/REJECT を記録し、CloudWatch Logs か S3 に出力する。パケットの中身は含まない(NetFlow/IPFIX に相当する。連載「SNMP入門」第10回の「フロー監視とは」「NetFlow・IPFIX・sFlow の比較」)
  • 用途:「SG で拒否されているか」の確認(REJECT を検索)、通信の棚卸し、GuardDuty(第9回)の入力
  • VPC Reachability Analyzer:送信元と宛先を指定すると、ルート・NACL・SG のどこで止まるかを静的解析できる。実パケットは送らない
  • Network Access Analyzer:「インターネットから DB に到達できる経路が無いか」を継続的に検査する
  • Traffic Mirroring:ENI のパケットを複製して IDS/IPS へ送る(SPAN/ミラーポート相当)
  • CloudWatch の NW メトリクス:ENI の NetworkIn/Out、NetworkPacketsIn/Out、NAT の ErrorPortAllocation(ポート枯渇)、DX の ConnectionBpsEgress(CloudWatch は第11回)
  • パケットキャプチャは EC2 の OS 上で tcpdump/Wireshark を使う。AWS 側の機器で取ることはできない
紫の枠「VPC」の中で「ENI」から「5 タプル・バイト数 ACCEPT/REJECT」の矢印が「VPC Flow Logs」へ、そこから「CloudWatch Logs」と「S3 → Athena」へ矢印が伸び、「パケットの中身は含まない(NetFlow/IPFIX 相当 → 連載「SNMP入門」)」の注記があり、下の枠「診断ツール」に「Reachability Analyzer 経路の静的解析」「Network Access Analyzer 到達性の継続検査」「Traffic Mirroring IDS へパケット複製」の3つの箱と太字の「通らないときの確認順:ルートテーブル → NACL(往復)→ SG → OS のファイアウォール」、下の枠「CloudWatch の NW メトリクス」に「NetworkIn/Out、NAT の ErrorPortAllocation(ポート枯渇)、DX の ConnectionBpsEgress。パケットキャプチャは OS 上の tcpdump(AWS 側機器では取れない)」とある、Flow Logs と診断ツールを示す図

演習:3 層 Web システムの VPC 設計

  • VPC 10.0.0.0/16、AZ は 1a・1c の 2 つ
  • パブリックサブネット 10.0.0.0/24(1a)、10.0.1.0/24(1c):ALB、NAT ゲートウェイ×2。ルート 0.0.0.0/0 → igw
  • プライベート AP サブネット 10.0.10.0/24、10.0.11.0/24:ECS/EC2。ルート 0.0.0.0/0 → 各 AZ の nat、S3 プレフィックス → ゲートウェイエンドポイント
  • プライベート DB サブネット 10.0.20.0/24、10.0.21.0/24:RDS マルチ AZ(第10回)。ルートは local のみ(外へ出さない)
  • SG は第6回の「セキュリティグループのルール例(3 層構成)」の 3 つ。NACL はデフォルト
  • 運用アクセスは Session Manager(SSM 用インターフェイスエンドポイント)を使う。SSH ポートは開けない
  • DNS:www.example.jp → Route 53 エイリアス → ALB とする。証明書は ACM を使う(第9回)
  • 拡張:オンプレ接続は VGW/TGW+VPN、静的コンテンツは S3+CloudFront に切り出す
  • この構成が「AWS の基本形」であり、CloudFormation/Terraform のサンプルの多くはこの形をしている
3 層 Web システムの VPC 設計の図。インターネットから IGW を通って「VPC 10.0.0.0/16」に入る。VPC の中は「AZ 1a」と「AZ 1c」に分かれ、それぞれパブリック・プライベート AP・プライベート DB の3つのサブネットを持つ。AZ 1a はパブリック 10.0.0.0/24(0.0.0.0/0 → igw)に NAT と ALB(マルチ AZ)、プライベート AP 10.0.10.0/24(0.0.0.0/0 → nat、S3 → エンドポイント)に S3 エンドポイントと ECS/EC2、プライベート DB 10.0.20.0/24(local のみ)に RDS プライマリ。AZ 1c はパブリック 10.0.1.0/24 に NAT、プライベート AP 10.0.11.0/24 に SSM エンドポイントと ECS/EC2、プライベート DB 10.0.21.0/24 に RDS スタンバイ。矢印は、IGW から ALB、ALB から両方の AZ の ECS/EC2、各 AZ の ECS/EC2 から同じ AZ の NAT へ「発信」、AZ 1a の ECS/EC2 から RDS プライマリへ「3306」、RDS プライマリと RDS スタンバイの間は点線の「同期レプリケーション」。

ネットワークのよくあるつまずき

  • パブリックサブネットに置いたのにつながらないケース → IGW ルート・パブリック IP・SG・OS の FW の 4 点を順に確認する
  • NAT ゲートウェイ経由で外から入ろうとするケース → NAT は出口専用。入口は ELB か EIP を使う
  • NACL の戻り(エフェメラルポート)を許可し忘れて、片方向だけ通ってしまうケース
  • SG の送信元に IP を書き、Auto Scaling で台数が増えて通らなくなるケース → SG 参照にする
  • VPC の CIDR がオンプレと重複して、VPN で経路が引けないケース → 設計台帳を最初に作る
  • 1 つの AZ の NAT に全サブネットを向けて AZ 障害で全滅し、AZ 間転送料もかかってしまうケース
  • S3 への大量転送を NAT 経由で行い、NAT の処理料が S3 の保存料を超えてしまうケース → ゲートウェイエンドポイントを使う
  • ELB の IP を DNS に直書きして変わってしまうケース → DNS 名かエイリアスを使う
  • enableDnsHostnames を切って RDS のエンドポイントが引けなくなるケース
  • EIP を確保したまま放置して課金されるケース(2024 年以降は使用中でも課金される)
ネットワークのつまずきの確かめ方。見出しは「「パブリックに置いたのに繋がらない」→ 4 点を順に確認」で、上から順に「① IGW へのルート」(経路表の絵)、「② パブリック IP」、「③ SG のイン許可」(盾の絵)、「④ OS のファイアウォール」(歯車の絵)が矢印でつながる。下の「設計時に決めておくこと」の枠には、CIDR 台帳(オンプレ・他 VPC と重複させない)、NAT は AZ ごと、S3 はゲートウェイエンドポイント、SG は IP でなく SG 参照で書く、ELB は DNS 名/エイリアスで参照、EIP は放置しない、の4つ。

Azure との対応(ネットワーキング)

AWSAzure補足
VPCVirtual Network(VNet)VNet は複数の AZ にまたがる点は同じ。サブネットも AZ をまたぐ(AWS はサブネット=1 AZ)
セキュリティグループネットワークセキュリティグループ(NSG)NSG はステートフルで許可・拒否・優先度を持ち、サブネットにも NIC にも付けられる。SG と NACL を 1 つにしたもの。SG 参照の代わりに Application Security Group
NACL(相当なし)NSG をサブネットに付けて代用
IGW(既定でアウトバウンド可。この既定のアウトバウンドアクセスは廃止の方向で、2026年3月31日より後に出た API の版で作る新しい VNet は、サブネットが既定でプライベート)パブリック IP リソースを NIC に付ける
NAT ゲートウェイNAT Gatewayほぼ同じ
VPC ピアリングVNet ピアリング同様に非推移
Transit GatewayVirtual WAN(仮想ハブ)/Route Server
サイト間 VPN(VGW)VPN Gateway
Direct ConnectExpressRoute接続事業者経由が主流な点も同じ
VPC エンドポイント(PrivateLink)Private Endpoint/Private Link、サービスエンドポイント
Route 53Azure DNS/Private DNS Zone/Traffic Manager(ルーティングポリシー相当)
CloudFrontAzure Front Door/Azure CDNFront Door は L7 グローバル LB+CDN+WAF。Azure CDN Standard from Microsoft(classic)は2027年9月30日に廃止予定で、Front Door の Standard・Premium へ移行する
VPC Flow LogsNSG Flow Logs → VNet Flow LogsNSG Flow Logs は2025年6月30日から新規に作れず、2027年9月30日に廃止予定
Reachability AnalyzerNetwork Watcher(接続のトラブルシューティング)

(Azure の補足のうち、既定のアウトバウンド・Azure CDN・NSG Flow Logs の日付は2026年9月時点の Microsoft Learn の記述です。)


考えてみよう

  1. 演習の構成で NAT ゲートウェイを置かずに、EC2 から S3 と CloudWatch Logs に書き込み、Session Manager で操作するには、どの VPC エンドポイントが要りますか。費用がかかるのはどれですか。
  2. 演習の VPC をオンプレ(192.168.0.0/16、社内ドメイン corp.example.jp)とつなぐとき、経路と名前解決のために何を用意し、冗長はどう取りますか。
  3. www.example.jp を東京の ALB に向け、東京が止まったら大阪へ切り替えるには、どのルーティングポリシーを使い、TTL はどう決めますか。

ヒント:1 は「DHCP オプションセットと VPC エンドポイント」、2 は「VPC 内の DNS:Route 53 Resolver」と2つの「オンプレとの接続」、3 は「Route 53 のルーティングポリシー」の節を見直してください。


まとめ

  • VPC の DNS は Route 53 Resolver(CIDR+2)。オンプレとは Resolver エンドポイント+転送ルールで引き合う
  • VPC エンドポイントは S3・DynamoDB 向けのゲートウェイ型が無料、ほかはインターフェイス型(PrivateLink)
  • VPC 間はピアリング(非推移)か Transit Gateway(推移可)。オンプレとは Direct Connect を主、サイト間 VPN をバックアップに
  • Route 53 はエイリアスでゾーン頂点も AWS リソースを指せ、ルーティングポリシーは問い合わせ元のリゾルバーで判定
  • CloudFront は HTTP のキャッシュ制御が効く CDN。証明書は us-east-1
  • 通らないときはルートテーブル → NACL → SG → OS。Flow Logs と Reachability Analyzer で確かめる

次回は、IAM とセキュリティの前編として、IAM のユーザー・ロール・ポリシーと評価の順序、ルートユーザーの保護、STS、Identity Center、Directory Service、Organizations と SCP を扱います。


連載「クラウド入門」全14回

  1. クラウドとは(定義・歴史・責任分界)
  2. AWSの全体像
  3. コンピューティング 前編(EC2・Nitro・インスタンスタイプ・AMI・IMDS)
  4. コンピューティング 後編(課金と購入オプション・Auto Scaling・ELB・コンテナ・Lambda)
  5. ストレージ
  6. ネットワーキング 前編(VPC・サブネット・SG・NACL)
  7. ネットワーキング 後編(DNS・接続・Route 53・CloudFront)(この記事)
  8. IAMとセキュリティ 前編(IAM・ポリシー・STS・ID連携・Organizations)
  9. IAMとセキュリティ 後編(KMS・シークレット・ACM・検知と防御)
  10. データベース
  11. 運用・監視・コスト 前編(CloudWatch・CloudTrail・Config・SSM)
  12. 運用・監視・コスト 後編(タグ・転送料金・コスト管理・Control Tower・IaC)
  13. Well-Architectedフレームワーク
  14. これまでのテーマとAWSの対応・まとめ

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